- 議題:「東京都の防災対策」
- 日時:2015年1月20日(火)18:00‐20:00
- 会場:東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター3F特別会議室
- 講師:前田 哲也 氏(東京都総務局総合防災部 計画調整担当課長)
東京都の防災対策
講師による主要な問題提起
- 都の危機管理を広範に扱う部署
- 総務局総合防災部は自然災害から感染症、テロまで、危機管理を広範に扱うセクションである。初動の情報収集等を行い、状況に応じて関係機関等と連携して対応を行う。
- 想定される危機の中でも、都に切迫する危機として、首都直下地震がある。対策を考える上では、都の特徴として首都機能等様々な機能が集中していることに加え、木造住宅密集地域、区部東部のゼロメートル地帯、多摩の山間部、島しょ部といった地域的に多様な特性を持つことに配慮している。
- 首都直下地震等による被害想定
- 都の被害想定は、国の最新の研究成果や科学的データに基づき平成24年に全面的な見直しを図った。すなわち、フィリピン海プレート上面の深さが従来の想定よりも10㎞程度浅いという最新の知見に基づいてモデルを設定し、首都直下地震として、①東京湾北部地震と、②多摩直下地震の2種類を検証するとともに、海溝型である③元禄型関東地震、活断層で発生する④立川断層帯地震についても新規に想定地震として追加している。
- 人的被害、物的被害等の想定は、冬の18時、風速8m/秒という設定で算定した。4つの地震想定の中では東京湾北部地震で一番死者数が多く、約9700人と想定されている。負傷者は約15万人、建物全壊被害(全焼含む)が約30万棟、帰宅困難者は約517万人という想定である。
- 東京都地域防災計画に基づく対策
- 被害想定に基づいた対策について、地域防災計画の震災編に限定して紹介する。人的・物的被害を軽減するだけではなく、都民生活や都市の活動の一刻も早い復旧・復興も目指して、「被害軽減と都市再生に向けた目標」を掲げ、これを概ね10年以内に達成することを目標としている。
- 第一に、自助・共助・公助を束ねた地震に強いまちづくりを目指して、家具の転倒防止対策や避難経路の確認といった住民による身近な自助の対策、防災隣組・消防団・災害ボランティアコーディネーター等の共助の対策を進める。公助の対策としては、都市基盤の防災性向上として、緊急輸送道路沿道の建物等の耐震化100%、三環状道路等の道路ネットワークの整備、鉄道施設耐震化、大規模民間建築物への備蓄倉庫や一時滞在施設の整備などを進めるとともに、エネルギーライフラインの確保として、コージェネレーション等による自立・分散型電源の確保、給水ルートの耐震継手化、応急給水体制の整備などを進める。その他、木密地域における不燃化対策、津波・高潮への備え、高層ビルへの対策などを進める。
- 第二に、都民の命と首都機能を守る危機管理体制づくりとして、国や民間機関のほか、他府県等との連携体制の構築が重要となる。平成26年4月に首都直下地震等対処要領を策定したが、これは、発災直後から概ね72時間の間に、時系列でどういった機関がどういった活動をどのような形で行うのかとりまとめたもので、情報収集活動、大規模救出救助活動拠点の立ち上げ、自衛隊等の応援部隊の受入れ、区市町村との連携、医療・救助活動、帰宅困難者対策、避難者対策、物資確保等の具体的な手順等を明示している。これを、今後訓練等による検証を重ねながら改定していく。今は、策定した様々な計画等の実効性を検証する段階に来ている。
- 医療機能の確保については、災害医療コーディネーターを配置し、都の災害対策本部にも数名張り付けて、初動医療体制を確立するとともに、民間事業者等とも連携し、医薬品等を確保する。帰宅困難者対策については、都で条例を作り、学生であれば学校に、会社員であれば企業に、動かずにとどまってもらうことにし、そのために学校なり会社なりに少なくとも3日分の食糧等を備蓄してもらうようお願いしている。民間事業者の協力も得ながら、帰宅困難者が発生した際の一時滞在施設として活用できるような施設の確保のお願い、その支援策も併せて行っている。情報通信の確保については、被害情報をいかに早く取るのかが一番の課題となるので、様々な通信機能を活用して迅速かつ正確な情報を取り、都民に伝えることができる体制を構築している。
- 第三に、できるだけ早く都民生活を再建する仕組みづくりとして、電力や通信等のライフラインについては60日以内に95パーセント以上回復させる、具体的には、電力は7日、通信は14日、上下水道は30日、ガスは60日という、個別の目標を立てて取り組んでいる。
- 避難者に対しては、避難場所の整備、機能の強化に加え、安全面についての配慮も必要になるが、女性の視点に立った避難所運営にも力点を置いている。加えて、物資の供給については、備蓄物資を都と区市町村で共同して、現在、概ね2日間の備蓄がされているところだが、これを3日間とする計画である。3日を過ぎると様々な物資のニーズが避難所等から上がってくることが想定されるので、民間事業者等と協定を結んで、調達や輸送について機能を向上させる取組をしている。生活再建の対策としては、り災証明の迅速な発行、ライフラインの早期復旧体制の構築、応急仮設住宅の供給の迅速化などに取り組んでいる。仮設住宅については、民間の住宅の空き家等を利用する対策も進めている。
質疑応答における主要な論点
- 災害時には、都民が都外に避難して都外の施設等を使用することも想定される。現在のところ自治体間連携としては大きく二つの取組がある。まず隣接自治体との連携については、埼玉、千葉、神奈川と政令指定都市を含めた9都県市という組織があり、相互連携を図っている。また、関西広域連合との相互連携も図っている。受援計画については、首都直下地震等対処要領の中に、応援部隊の受け入れ手順等を示しており、今後は訓練を通じてこれを検証していく。
- 3.11後に首都直下地震等の被害想定の見直しを行ったが、その考え方は、一番被害が大きいシナリオに基づいて地域防災計画等で網羅的に対策を講じておけば、他のケースにおいても対応できる、というものである。しかし、複数の災害が組み合わさって起こるということも想定される。対策は限られた資源で講じざるを得ないが、複数の災害が同時に発生した場合のシナリオについても検討することが必要かもしれない。
- 現在、都と区市町村とで防災対策を協議する場を持っているが、多様な地域、多様なステークホルダーがいるなかで、都としてある一つの対策を推進しようとする場合には困難もある。例えば、3日間分の物資備蓄の推進について、想定される避難者数が比較的少ない地域は対応できるが、想定される避難者数が多く備蓄する場所もない、財政的にも厳しい地域であれば、なかなかその対策が進まないといったことがある。都としては、なぜ備蓄が3日分必要なのかという理由から紐解いていかないと合意が得られないし、備蓄が無理であれば広域自治体である都が補完をする、ということを、個別具体的に説明する必要もある。場合によっては、区市町村同士の連携も必要になってくる。
- 首都機能の危機管理となると、都のマターなのか国のマターなのか線引きが非常に難しい。国の実務者レベルには、何か起こったときは都と一体という認識がある。都においては、危機管理の広範を総合防災部が担っており、ひとたび災害等が起これば関係機関等と連携して対応することになっている。一方、国においては内閣府防災と内閣官房と分かれている。具体的な対策は司司での取組になると思うので、都としては、国の仕切りに合わせるというのが基本的な認識である。
- 3.11後に都の危機管理監が都のプロパー職員から自衛隊出身者に変わったことにより、防災訓練に対する取り組み方も変わり、訓練により計画等の実効性を検証し、適宜計画等を見直すという視点により比重が置かれ、実践的な訓練を行っている。
- 発災時に対応にあたる人員の確保について。時間帯によって帰宅困難者への対応など対策が違ってくるが、被害状況に応じて、都の職員が区市町村にリエゾンとして派遣される。区市町村の職員にはできるだけ区市町村の業務に従事してもらい、都はリエゾンから被害状況等の情報を取り、リエゾンを通じて区市町村に対し情報の伝達等を行う。都ではBCP(事業継続計画)の地震編を策定済であるが、改めて各業務を洗い出した上で、どういった人員を当ててその業務をやるのか、人員をどこにどうやって参集させ、どういう体制でやるのか、今後見直しを行う予定である。事業を仕分けて受援体制を整備することも必要だろう。区市町村間の連携はできるのか、あるいは、本当にその業務はその職員でなければできないのか、それとも代替がきくものなのか、自治体間の同種の仕事はある程度共通でやるといった連携や人員の融通ができるのかどうか。こういったことも受援体制に関わってくるだろう。
- 東京オリンピック・パラリンピック等をはじめ都が抱える様々な課題や特性を考えると、都の危機管理にかかる体制をより充実させる必要がある。一つの計画を作るのにも膨大な作業が発生する。現在の体制では、災害等の対応は職員の通常業務に付加されるので、ひとたび災害等が起これば、その間通常業務は停止してしまう。災害等に対応する専門要員の配置などの検討も必要なのかもしれない。
以上
(本講演内容は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。)