複合リスクのガバナンスに向けて(2)

  • 谷口武俊

日本のリスクを俯瞰する

今後10年程度(2025年まで)を展望したとき、日本のナショナルリスクとして考慮すべきリスクを洗い出し、これらのリスクの発生可能性と影響度、リスク間の相互関連性などについて、有識者の認識を可視化するため、平成26年3月の予備的調査を踏まえ、同年8月にWebアンケート調査(有効回答者数169名)を実施した。

ナショナルリスク・ランドスケープ調査は、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2013年度版で調査された50のリスク項目を基本的な出発点としながら、日本の状況を踏まえたリスク項目を追加、経済、環境、地政学、社会、テクノロジーの5分野、計69のリスク項目を取り上げた。

結果の例として、上位20のリスク一覧およびリスクの相互連関マップ(調査対象とした67項目全体版)を示す。また、リスク分野ごとに最も重要だと考える中枢リスクは、経済分野が「慢性的財政危機」、環境分野が「大地震の発生」、地政学分野が「グローバルガバナンスの機能不全」、社会分野が「少子高齢化問題への取組みの失敗」、そしてテクノロジー分野が「重要なシステムの障害」と「技術開発力の低下」であった。今回の調査で明らかになったことの一つは、ナショナルリスクとしては日本の実情に応じた固有のリスク項目が影響可能性と影響度ともに高い評点となるが、中枢リスクの評価では世界経済フォーラムで取り上げられたリスク項目が多く、リスクの源泉を辿っていくとグローバルリスクもナショナルリスクも共通なものに収斂していく傾向がみてとれ、この両面を見据えながら、日本のリスクを俯瞰していくことが重要である。

表 リスク一覧(上位20項目)

crg_ranking

リスクの相互連関マップ

crg_relation

日本のナショナルリスク・ランドスケープ調査報告を踏まえた、公開シンポジウム「これからの日本のリスクを俯瞰する」(平成26年10月29日、伊藤謝恩ホール)の参加型ラウンドテーブル討論では、各分野の専門家により、各分野のリスクのとらえ方と抱えている課題、分野横断的に俯瞰した場合のリスクのとらえ方、アンケートの手法、俯瞰の先の対応、具体的にはレジリエンスや優先順位付け、トリアージュ、その場合の意思決定システムのあり方などについての広範な論点が提起された。広範多岐にわたるリスク項目が議題であるにもかかわらず、レジリエンスの重要性など、議論がかみ合っていたことこそが、リスク問題の本質は人の営みに関わるということを表している。