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第4回 レジリエンス政策研究会 開催概要

  • 議題:「自衛隊の災害派遣と国民保護措置の実施について」
  • 日時:2014年7月15日 19:20 – 21:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター3F 特別会議室
  • 講師:原田忠義氏  防衛省運用企画局事態対処課国民保護・災害対策室長

自衛隊の災害派遣と国民保護措置の実施について

講師による主要な問題提起

  • 自衛隊の災害派遣の枠組みDSC00114_1
    • 災害対策に関する法令体系の根本には災害対策基本法があるが、政府は①首都直下、②地震防災、③南海トラフ、④日本海溝・千島海溝、⑤原子力災害といった、大規模災害に対処する計画を順次整備している。防衛省を含む関係省庁も各々について対処計画を作り対応する。
    • 自衛隊の災害派遣は、自衛隊法83条の仕組みに基づく。一般的に、①都道府県知事は、災害に際して、防衛大臣または指定する者(方面総監、自衛艦隊司令官、航空司令官、普通科連隊長等)に要請を行い、②この要請に基づいてこれら部隊等の長が部隊を派遣する。また、市町村長は都道府県知事に派遣要請を要求できるが、通信の途絶などのより要求できない場合には、自衛隊に災害の状況を通知できる。さらに、緊急を要し、都道県知事の要請を待ついとまがないと認められる場合は、自主派遣という制度がある。自衛隊が災害派遣を行う判断基準は、公共性、緊急性(差し迫った必要性があること)、非代替性(自衛隊以外に手段が無いこと)である。自衛隊の災害派遣は、天変地異等に際し人命・財産の保護のためやむを得ない場合に、緊急的・一時的な支援を行うものである。
    • 自衛隊法では、83条の災害派遣とは別に、83条の2や3において、大規模地震対策特別措置法に基づき要請を受けた地震防災派遣、原子力災害対策特別措置法に基づき要請を受けた原子力災害派遣が規定されている。例えば、原子力災害は、情報収集事態から、警戒事態、施設敷地緊急事態、全面緊急事態へと、推移していくが、福島原発事故はこの全面緊急事態にあたるものだったので、当時は防衛省も、通常の83条の3の原子力災害派遣として対応した。なお、この原子力災害の事態区分は、福島原発事故の後に刷新された。
  • 大地震発生時の防衛省・自衛隊の対応
    • 大規模地震が発災した場合、政府レベルで、官邸対策室の設置から緊急災害対策本部の設置に至る対応が行われ、防衛省レベルでは、防衛会議を開催し、防衛省対策本部を設置し対応していく。現地部隊レベルでは、陸・海・空の偵察や部隊から関係自治体へ連絡要員を派遣し、都道府県知事から災害派遣の要請を受け、災害派遣を実施するという流れになる。
    • 自衛隊の災害派遣をすぐに行えるように、平素よりFAST-Forceという陸海空による即応部隊を整備し、一定規模以上の地震発生後にヘリによる偵察、1時間を基準とした陸自の出動、また、海自の初動対応艦の出動、といった体制を整えている。最初はこうした部隊を派遣し、その後必要に応じと部隊を投入していくことになる。
    • 自衛隊が行動する際には、自衛隊法上に一つ一つ行動類型の根拠を必要としており、例えば①武力攻撃予測事態と②武力攻撃事態と③緊急対処事態のそれぞれの対処について、一つ一つ行動類型が必要となる。したがって、何らかの災害が起こったときに、原因が何か判らない、テロなのか事故なのか判別できない事態が生じた時の行動類型については、最初は何らかの被害状況に基づき、都道府県が要請するか自主派遣になるかは別として、国民を保護するという観点で、災害派遣で出動するしかない。状況が判明し、緊急対処事態や武力攻撃事態が認定されれば、災害派遣から国民保護等派遣、治安出動、防衛出動による国民保護措置の実施に切り替わる。
  • 自衛隊の災害派遣活動の内容
    • 捜索・救助、情報収集活動、特殊災害対応、空中消火、復旧活動、給水・給食支援、入浴支援、応急医療、患者空輸・物資輸送などがある。厚労省が派遣しているDMAT、消防や警察の応援部隊の搬送なども行う。
    • 平成25年の災害派遣実績を見ると、全活動で約550件のうち、急患輸送が約400件でほとんどを占める。特に夜間や天候不順の際などに海の上を飛ばなければならない場合に自衛隊が出動することが多い。なお、平成26年2月の山梨の豪雪災害はなかなか難しい事例であった。自衛隊は基本的に他者ができることはやらないので、例えば人命に直接被害が及ばない除雪はやらないが、この点はなかなか理解が得られない。
  • 国民保護法と自衛隊の位置づけ
    • まず武力攻撃事態対処法(平成15年6月成立)があり、その後、関連する国民保護法、自衛隊や米軍の行動の円滑化に関連する法制、交通及び通信の総合的な調整に関する法制、捕虜の取扱いに関する法制、条約関係を一括して作った(平成16年成立)。すなわち、全体像としての武力攻撃事態対処法制の中の国民保護法という位置づけになる。ただし、有事においては武力攻撃事態対処法のみではなく、他の法律も含めて対処することとなる。
    • 実は、国民保護法は災対法を基にして作られたので、構成はかなり災対法と似ているが、以下のように異なる部分もある。①事務的性格については、防災は自治事務だが、国民保護は法定受託事務。②対応主体については、防災は市町村が主体で国と県が補完するが、国民保護は国→県→市町村となる。③対策本部については、防災は市町村が自らの判断で行うが、国民保護では都道府県や市町村は国の指定によって本部を設置する。④県の役割については、防災では補完的役割である一方、国民保護では県内における総合調整の主体となる。
    • 自衛隊は、武力攻撃事態においては、我が国に対する武力攻撃の排除措置に全力を尽くすことで、我が国に対する被害を最小化することが、主たる任務である。自衛隊の存在理由はここにある。他方、武力攻撃の排除措置に支障の生じない範囲で、可能な限り国民保護措置を実施する、ということを基本としている。これは自衛隊の計画の中にも明記され、国会答弁でも明らかにされている。また、緊急対処事態、すなわちテロのような事態においても同様に、自衛隊も可能な限り実施する。自衛隊は平素から、関係省庁や地方公共団体と一緒に共同訓練や連携会議等を開催し、いざ活動するときの体制をきちんと整え、対策本部等を設置することになっている。
  • 文民保護を取り巻く課題
    • 国民保護措置の仕組みは、大きく分けて、①避難(国民・住民を安全なところへ逃がすこと)、②救援(食糧や医療を提供すること)、③被害の最小化(大きな武力攻撃を受けた時の災害を最小化しようという措置)の3つがある。有事の際には避難誘導というものが難しいのではないか、どのように避難するのか、と議論される。しばしば、(有事の法制は)先の戦争経験をもとに作ると言われるが、日本も同じで、やはり避難誘導は不可欠とされた。現代では有事において避難をしても間に合うのかどうか疑問があるかもしれないが、国民を保護するためには制度として作っておかなければならない。また、「防衛省や自衛隊が庇って逃がしてくれるのだろう」などと言われることがあるが、有事において自衛官は戦闘員となるため攻撃対象になり、その攻撃対象と一緒に民間人を行動させるのはどうなのか、という議論もあった。
    • では、一体誰が、国民保護措置に書かれている避難・救援・被害の最小化を担うのだろうか。日本には、かつての言葉でいわゆる民間防衛、ジュネーブ条約の言葉でいう文民保護団体というものは存在しないと言われていた。ヨーロッパ諸国や韓国では平素から国でそう言った組織を作って訓練等を行い、避難を担う。アメリカでは州兵が担っている。これは実は大問題であり、有事法制の整備時にも追及されたが、国民保護法では、警察、海保、消防、自衛隊(いわゆる実働4省庁)と都道府県と市町村等が全体としてが連携してやる、ということになっている。ジュネーブ条約では、文民保護団体は文民保護標章の腕章等をつけて活動しなければならないとされているが、日本でも実は、法律上は、有事になればそうした腕章を交付することになっており、警察や消防などの各省や地方公共団体がそれぞれの要員を出すこととなっている。
    • 原子力災害時などに住民を避難をさせるのは特殊な訓練や専門知識が必要かもしれないし、事業者、病院、介護施設、地方公共団体が移動手段を準備することとなるが、いざというときは自衛隊を含めた国全体として対応しなければならない。ただし、複合災害、あるいは大規模化が想定される南海トラフ地震の際は、自衛隊の能力をもってしても不十分かもしれない。
    • 福島原発事故の際、高齢者施設の寝たきりの人を輸送する必要がでたが、自衛隊の輸送手段では困難であった。要援護者の輸送は当然やる必要があるが、しかし、自衛隊が何か特別な対策をしている訳ではない。災害時には自衛隊の能力をいかに割り振るかが重要なので、やりたい気持ちはあるが、自衛隊の能力をもってしても全てやるのは難しい。被害想定に基づいて、日頃から輸送手段を準備することとなると、相当な人手とコストは必要となる。要介護者と避難のためのリソースの関係は難しい問題であり、ここをどう埋めるかは重要な課題である。

 

質疑応答における主要な論点

  • 「有事法制の中の国民保護法」と言われるが、オールハザードの観点だと、有事であろうが自然災害であろうが、国民保護が上に来るのだろう。これは議論としてはあり得るが、日本の法律は個別現象ごとに、国民の権利義務の制限もそれぞれに規定されるので、現時点では個別の対応となっている。仮に、上位に一本作ったとしても、個別の対応は個別に分かれるのだろう。ただ、役所の中でも部署縦割りを超えて横断的に議論をするインセンティブにはなるかもしれない。
  • リスク評価の部署を作るとしたら内閣官房に作るしかないだろう。どこかの省庁(内閣府も含む)に作ると、省庁間では命令はできず「お願い」しかできないので、官邸サイドから命令ができるようにすべきである。意思決定は現在の縦割りでもよいだろうが、統合的にアセスメントを行う別途部門は必要であり、内閣官房の部署中では、特に事態対処・危機管理担当や情報セキュリティが関わるだろう。しかし日本は文化としてアセスメントを評価せず、お金もつかない。防衛省の防衛研究所では、何が脅威かという分析を行っているので、専門の人がいればアセスメントもできるかもしれない。
  • 自衛隊にとって災害対策を任務として持つことの意義について。色々な任務を持つほど、自衛隊のリソースをどこに割り振るのか、それをどう担保するのかという議論も出てくる。有事の際にいざ戦闘をしなければならないとすると、切り替えるシステムが必要であり、しかも自衛隊だけでは決められない。ジュネーブ条約上は、有事の時に、自衛隊が民間人のところにいることは問題ないが、一度文民保護団体として活動すると、二度と攻撃に参加できない規定もある。自衛隊の根本はそもそも有事おける侵害排除のためにある組織なので、あるときは文民保護団体になったり、あるときは自衛隊になったりはできない。小規模災害なら自衛隊も色々できるが、大規模の事態、あるいはオールハザードになると、局面において、全体の中での自衛隊の役割の変化が避けがたくなる。オールハザードという言葉の実質的な意味とはそこにあるだろう。

 以上

(本講演内容は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。)