2019年4月1日をもちまして、政策ビジョン研究センター(PARI)は未来ビジョン研究センター(IFI)に組織統合いたしました。
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ワークショップ概要

本ワークショップの一部の映像データは、東大TVにてご覧いただけます。
東大TV:討論・報告「欧州の研究マネジメント専門家から学ぶ:国際連携研究で求められるスキルと役割」

東京大学政策ビジョン研究センターでは、2016年3月9日にJETROアジア経済研究所との共同主催で、ワークショップ「欧州の研究マネジメント専門家から学ぶ:国際連携研究で求められるスキルと役割」を開催しました。本企画は、我が国の若手研究者や、キャリアをスタートして間もないURA、研究マネジメント人材が、EUと日本の実務者から国際連携研究で求められるスキルと役割について学び、研究力の強化へ繋げるというものです。ワークショップは、セッション1の基調講演とセッション2のパネルディスカッションの二部構成でした。

まず、セッション1では、「研究連携をとりまくヒト・モノ・コト」の観点から、EUと日本のケースについて各講師が講演しました。EUの研究マネジメント専門家のマルヨライン・ファン・グリータイゼン氏は、研究者の関心や不安は何か、国境を超えて連携した研究をどのように欧州委員会の政策レベルから実際の現場に落とし込むかについて、グローバルな文脈の中で戦略的に連携研究の構築を推進したエラスムス大学での経験を含めて述べました。グローバルな観点とは、世界中を対象に分析するとのことでした。EUのプログラムの協力体制は、研究費の支援期間や、国レベルで異なる政治システムでの対応等非構造的な(いわゆるWickedな)体制で、そのような体制下においても、それぞれの制約条件の中で直接関係者と調整しながら研究現場とEUのプログラムとを繋ぐ接点となり、プログラムを有効に活用して研究をイノベーションに埋め込んでいく、未来の課題をチャンスに結びつけていくことが研究支援者の役割であると述べました。
伊藤正実氏は、URAが能動的にプロジェクトを作っていく際には、異分野・異セクターにおける各関係者の制約条件を知り、コミュニケーションのギャップをできるだけ取り除いて調整していくことが重要であると述べました。また、関係者に対する信頼を得ていくことが大切で、それには目的とする人や対象をよく把握し、直接会って話し合うことが最も確実な方法だと話しました。

セッション2のパネルディスカッションでは、国際連携研究に関わっている担当者から、EUや日本、それぞれの立場から実際の現場での役割について紹介がありました。続いて、EUの登壇者へ、日本の側から実務で気をつけている点やポイントについて、チャタムハウスルールでインタビューを行いました。
1)URAは研究費の獲得も業務の一つだと思うが、自分らの研究を続けるためのお金が必要なだけで、お金が最終目的ではない、2)研究者の話に耳を傾ける、また、時には濃淡を調整しながら関係者と連携して戦略を策定していくことが必要である、3)研究支援者は、研究の全てを完全に理解する必要はなく、例えば午前は社会科学系、午後は別の分野といったように、全ての研究に対してマスターであることが大切だ等、EUの登壇者から、仕事の具体的な紹介や意見、回答がありました。
国際連携研究の機運が高まっている中、連携研究における課題とその克服について、実務者の事例を通じて再考した機会となりました。

坂田一郎教授

■オープニング 坂田一郎東京大学政策ビジョン研究センター長
(以下発言要旨)
政策ビジョン研究センターでは、国際連携を積極的に進めています。国際連携研究には、世界的な範囲でより最適な研究のパートナーを探すことができる、またその中で国際的な観点から多様な知識を取り込むことができるという、2つの大きな意義があると考えています。今回は、国際連携の意義を生かすために、どのような課題があるか、また、それらを乗り越えるための方策についてご検討いただき、多様な知の創生の場としていただきたいと思います。東大TV

■セッション1 「研究連携をとりまくヒト・モノ・コト」
●EUのケース
Marjolein van Griethuysen (マルヨライン・ファン・グリータイゼン)Global Scientific Business Innovations 代表 発表資料

基調講演として、国際連携研究の構築に関わったマルヨライン・ファン・グリータイゼン氏は“Wicked challenges and opportunities for global research collaborations”という題で、EUのケースについて述べました。講師は、オランダ外務省、ユトレヒト大学講師、オランダ政府社会福祉環境省、エラスムス大学(2008年〜2015年)を経てオランダ政府経済・農業・イノベーション省アドバイザーや、2016年よりEARMA(European Association of Research Managers and Administrators)の役員を務めています。エラスムス大学では、EUにおける研究資金調達や研究機関のネットワーキング、リサーチポリシーの作成等を積極的に行う部署、European Affairs and Innovation Officeで、2008年から2015年まで所長を務めました。

マルヨライン・ファン・グリータイゼン氏

(以下講演要旨)
私は、政府との非体系的ないわゆるWickedな協力関係下で、研究者や、欧州委員会と連携を持つために、エラスムス大学のブリュッセルのオフィスで、研究者へ国際連携研究の魅力を伝え、欧州委員会へは研究戦略の策定に協力しました。その際には、国レベルと欧州全体の助成金のバランスやプログラムの期間、分析を通じたグローバルなパートナーシップ作りなど、Pro-ActiveもしくはRe-Activeの双方の視点で考え対応してきました。例えばある研究者が決めたテーマを、欧州委員会の議題に出し、Horizon2020の先も視野に入れてEUのフレームワークプログラムの中に入れて立法化されるよう推進しました。
自大学の研究者をグローバルに繋ぐといった戦略策定をする際は、自国に近い政治システムの国を探し、欧州域内、アジアも含む、国境を越えたフォーカル・ポイントを分析し、条件に応じて書誌分析も活用し、最良の研究機関を選定するようにしています。そのためには地政学的、セクター横断的な協力も重要です。
研究者に、どのように卓越した研究をさせるのかということも大切で、国際的に活躍できるPIになるための学内からのサポート(国際PIアカデミー)、 Horizon2020のMarie Sklodowska-Curie Actions(MSCA)、ERC(European Research Council)の情報提供等、仕組みの中にエンブレムを持つ工夫もしました。研究者は、まず、国内で当該研究の強みがあれば、グローバルに研究を展開でき、国内のイノベーション・システムに埋め込まれ支援を得ることができるので、我々は先を行って、欧州委員会のために科学外交を実現していく必要があります。
最近は、(国境を超えた一国の利害にとらわれない)トランス・ナショナルな戦略になっており、需要があるものをネットワークの連携で作るようになってきていたり、国内のエコ・システムから地理的なエコ・システムへの移行がみられ、大学がメリットを受けることができるような方向性に変わってきています。

伊藤正実教授

●日本のケース
伊藤正実 群馬大学産学連携・共同研究イノベーションセンター教授 / 研究支援人材育成コンソーシアム室室長・元産学連携学会長 発表資料

伊藤正実群馬大学産学連携・共同研究イノベーションセンター長は、「異セクター・異分野間の連携研究による価値創造を目指して ―その陥穽と克服への道程―」という題で、日本のケースについて述べました。
伊藤教授は、2015年までの6年間、産学連携学会の会長でもありました。この学会は、産学官連携の事例を蓄積し、セクター間をまたがる知的生産による新たな価値創出の方法論を導き出すことを設立趣旨としています。また、文部科学省の支援を受けた「4u」という首都圏北部4大学連合事業を背景に、「多能工型」研究支援人材育成コンソーシアムの立ち上げや、室長としてURAの教育にも従事しています。

(以下講演要旨)
私の元々のキャリアは、研究者ですが、産学官連携に非常に多く取り組んできました。産学官連携、これはセクター間をまたがった形での社会課題解決型の学術研究であります。私自身もそういった学際領域研究のプロジェクトを作るようなこともしてきました。そういう意味において、学際領域研究と産学官連携というのは非常に似たような構造があり、そこで使うテクニックはそれほど変わらないと思っています。また、リサーチ・アドミニストレーターは、プロジェクトを能動的に作ってもいい存在だと、私自身は思っています。
異分野、異セクター間のプロジェクト形成のためには、例えば研究の目的や目標、性質、発展段階か収束段階かといったスコープの状態、連携先の規模、目指す期間等の制約条件があり、その条件の理解と連携の構造をイメージして能動的に提案していくことが重要で、そこにはプロセスがあります。そのプロセスとは、プロセスA「ある仮説的なテーマが顕在化し、これを関係者間で、接触し議論することを合意するまでのプロセス」と、プロセスB「あるテーマでのプロジェクトの成立の可否について関係者が接触して検討をおこない、スコープが確定するまでのプロセス」です。Webサイト等で企業とのマッチングをするといった事はあくまで一つのツールでしかありません。プロセスAでは、特に教員や企業に対する信頼性の構築と主体性が重要で、何よりも、ターゲットとした相手をきちんと調査し、その人に会って提案をすること、それが最も効率がいい方法です。東大TV

■セッション2 パネルディスカッション「“現場”から見る国際連携研究の実際」

トム・クチンスキ氏

マシュー・ピー氏

西村薫氏

佐々木晶子氏





●EUの視点
・Tom Kuczynski(トム・クチンスキ)EU駐日代表部科学技術部アドバイザー 発表資料
トム・クチンスキ氏は、“EU-Japan research cooperation opportunities through EU’s Horizon 2020 research and innovation program”と題し、特に基礎研究に優先度が高いMSCA 、ERCや研究者、職員が参加する柔軟性の高いRISE(Research and Innovation Staff Exchange)のプログラムについて具体的に紹介しました。東大TV
・Matthieu Py(マシュー・ピー)EURAXESS Links Japan 日本代表部 発表資料
マシュー・ピー氏は、“Internationalization of Japan 's research landscape: needs and tools to address them by EURAXESS”と題し、日本の国際連携研究の概況を踏まえ、情報収集とネットワークの活用を通じた国際化へのマインドセットついて述べました。東大TV

パネルディスカッション

●日本の視点
・西村薫 東京大学生産技術研究所URA
西村氏は、フランスのCNRS東京事務所や日本学術振興会、現職における、海外拠点との調整の経験を通じて、URAは色々とコーディネーションできる仕事であると述べました。東大TV
・佐々木晶子 JETROアジア経済研究所研究マネジメント職
佐々木氏は、自身も欧州の機関を訪問して交流の糸口を探しており、自機関の活動を国際機関のイベントで発信して、海外での知名度を上げることもしていきたいと語りました。東大TV

●ディスカッション
ここでは、具体的にどのように連携研究のプロジェクトを作り上げていったのか、頭脳の流出や頭脳循環、基調講演における日本の連携研究の手法や若手へのコメントについてチャタムハウスルールで議論を進めました。

インタビュアー

・質問者1
Q.具体的にどのように連携研究のプロジェクトを作り上げていきましたか。頭脳の流出や頭脳循環についての考え方はどうですか。
A.研究者につぶさに耳を傾け、特徴や研究の状況等を峻別できること、また、全ての研究について完全に理解するということではなく、例えば、午前は社会科学分野で、午後は別の分野に関わるといった一般的なスキルが必要です。また、パイオニアである一方、他の人の足を踏むような立場であることも念頭にうまく対処し、研究者との協力関係の構築と維持には時間をかけることが秘訣です。そのためには、情報だけではなく、インテリジェンスを育み、研究者にとって、影響力を持てるかどうか、イノベーションがどう変わっていくのかということに対して、高い感性を持つ必要があります。
ヨーロッパのネットワークを戦略の中に組み込むためには、数週間の短期的な海外滞在などを通じて、研究者が研究環境を知る機会を得ることなどが考えられます。

・質問者2
Q.現在、米国でリサーチ・ディベロッパー同士の連携がありますが、欧州の状況についてはどうですか。
A.欧州も同様で、リサーチ・ディベロッパー同士の連携があります。フォーカル・ポイントはどこか、どこに接触をするのが一番相応しいか、確認しながら進めています。

・質問者3
Q.若手へのコメントがありましたら教えてください。
A.この仕事は、既存のリアルな仕事とは異なる新しい種類の仕事で、自ら仕事を作りあげていく必要があります。また、大学外の多様な仕事の経験を持った人材とコネクションを作るといった可能性もあり、このことも戦略として参考になるかもしれません。

・質問者1
Q.伊藤正実教授の基調講演でのプロセスAとプロセスBのご紹介を受け、関連するご経験等あれば教えてください。
A.ヨーロッパでは「Co-creation」という言葉があります。学際的な研究に対して意識を持ち、すべてのステークホルダーに関与し、彼らに学際的な認識を持たせることです。私が理解した範囲では、このプロセスAとBを統合することによって素晴らしい成果を生み出すという、とても興味深い戦略だと思いました。

島添順子氏

■クロージング 島添順子 JETROアジア経済研究所研究連携推進課長
日本と欧州には良い研究者が集まっているという「地の利」、国際連携研究の機運が高まっているという「時の利」、URAや研究所の研究マネジメント職が活動してきているといった「人の利」がそれぞれ手招きしており、その好機に当ワークショップが役立てば幸いであるとの言葉で、閉会となりました。東大TV

(編集後記)
当会を経て、セッション1の2名の講師から、共通の気づきを得ました。それは、連携研究における関係者の制約を知り、戦略を考え能動的に調整する、また、目的とする人の事をよく調べて直接会って話をするということでした。これは、たとえ国が異なっても共通するスキルであると感じました。研究者の潜在的な魅力がいかにして引き立つか、研究をサポートする私たちが何を大切にして、舵をとるべきかを考える会となりました。これらを通じて、私たち自らできることの「力の総力」で、研究を取り巻く環境の何かが変えられるのではないか、そう思った次第です。
本企画にご協力いただいた登壇者の皆様と共同主催のJETROアジア経済研究所の皆様に心より感謝申し上げます。
(協力:藤田正美・佐藤多歌子・武藤淳・東大TV  文責:村上壽枝(企画・司会・インタビュアー))